「Physics of the Future」読了

本書は2年ほど前にKindle本無料サービスが有った時に購入していたもの。
久しぶりに科学系ノンフィクションが読みたくなり、以前購入して放置状態だったこの本を選んでみた。
サブタイトルの「How Science Will Shape Human Destiny and Our Daily Lives by the Year 2100」が示すように、2100年頃までの科学技術(エレクトロニクス、人工知能、バイオ関連など)の発達と、それによって社会がどのように変わって行くかを大胆な想像を交えつつ予想したもの。
既に知っている研究結果も多かったためあまり意外性は無かったがそれなりに楽しく読めたし、自分の知識の整理にもなった。

著者:Michio Kaku
368ページ

【あらすじ】
本書が出版されたのは2011年。
著者は「未来」を「現在~2030年」、「2030~2070年」、「2070~2100年」の3段階に分け、様々な分野の科学が各段階でどのような進歩を遂げるか、そしてそれによって人間の生活がどのように変化するかを、専門家や研究者の話に基づいて大胆に予想する。

本書の目次は以下の通り。

INTRODUCTION: Predicting the Next 100 Years
1 FUTURE OF THE COMPUTER: Mind over Matter
2 FUTURE OF AI: Rise of the Machines
3 FUTURE OF MEDICINE: Perfection and Beyond
4 NANOTECHNOLOGY: Everything from Nothing?
5 FUTURE OF ENERGY: Energy from the Stars
6 FUTURE OF SPACE TRAVEL: To the Stars
7 FUTURE OF WEALTH: Winners and Losers
8 FUTURE OF HUMANITY: Planetary Civilization
9 A DAY IN THE LIFE IN 2100

著者はそれぞれの科学の分野の発達の予想を一通り行ったのち、7~8章で新時代の人間に求められる価値について述べ、そのために重要となるのは理性に基づいた知恵であり適切な教育であることを説明する。
そして最後に9章で2100年の理想社会を物語仕立てで紹介している。

【感想】
上記の目次が示すように、本書ではコンピュータ(ハードウェア)、人工知能、薬や遺伝子工学、ナノテク、エネルギー問題、宇宙開発などの様々な分野の科学技術の進歩と、それらが人間の生活をどのように変えていくかを予想している。
また、社会の変化によって富や人間性などがどのように変わって行くかについても言及してる。

上であげられた項目はいずれも興味深いものだったし、将来重要になりそうな科学の大部分の分野をカバーしていると思う。

しかし、本書で説明されている内容はここ数年の科学の動向に注目していればほぼ予想できる内容でもあり、そういう意味では意外性は今ひとつ、という感じもする。

これは、本書が比較的初心者向けに書かれているためかもしれない。
(私の大学時代の専門が理論物理だった事、プログラマとしてコンピュータに長年かかわっていたこと、人工知能に興味を持って調べていた事、SF好きな事など、著者の専門・興味と重なる部分が多かったことも関係あるかも。)

しかし、著者が様々な分野の専門家から聞いた科学の最先端の話などは具体的には知らなかった話も多く、それなりに楽しく読む事が出来た。

本書で述べられた未来予想は基本的には現在の科学技術に基づいていて、根拠の無い荒唐無稽なSF的なアイデアは原則として考えていない。
(例えばSFでおなじみのワープ航法や反重力などというものは登場しない。)
とはいうものの、中にはちょっと飛躍が過ぎるのでは無いかとか今後100年かかってもそこまでは進歩はしないだろうとか、予想が少々大胆すぎるように思われる部分もあった。
(例えばナノマシンや常温超電導や軌道エレベーターや不老不死など。)
また、第9章のSF小説仕立てで描いた理想的な未来社会像も、小説としては色々と突っ込みどころが多かった。

しかし、そのように空想を思い切り広げて未来を予想してみるのもそれはそれで楽しい。
また自分の知識で欠けていた部分やはっきりしていなかった部分を整理する事も出来たので概ね満足だった。

英語は構文は非常に読みやすかった。
わかりにくい動詞句や慣用句・口語表現もそこそこ有ったが、大部分は辞書で解決出来るレベル。
また科学の専門用語も結構出てくるが、あまり専門的すぎる単語(化学物質の名前など)は無視して読んでも多分問題無いはず。

【余談1】
本書ではSF好き(?)にはちょっと気になるキーワードが色々と出てくる。
参考までに、以下にそれらの幾つかを記しておく。

・quantum computer
 量子コンピュータ。
 (理屈がよく理解出来ていないので後で調べておこう…)
・Hayflick limit
 ヘイフリック限界。細胞の分裂回数の限界のこと。
・Meissner effect
 マイスナー効果。超伝導体内部に磁束が侵入しない現象。
 (常温超電導、出来たら便利なのになぁ…)
・Goldilocks zone
 ゴルディロックス・ゾーン。生物が生存可能な惑星の範囲(太陽からの距離)。
 Goldilocksという名前は提唱者の名前かと思っていたのだが、実際は「Goldilocks and the Three Bears(3びきのくま)」という童話に登場する女の子から採ったものらしい。

【余談2】
本書では、人工知能が不得意で人間が得意な分野は「pattern recognition(パターン認識)」と「commonsense(常識)」であるとし、将来的に人工知能に取って代わられない職業を目指すならこの2つを考慮すべきと述べられている。

この記述には今ひとつ同意できない。
現在人工知能による「パターン認識」の研究がさかんに行われてそれなりに成果をあげている事を考えると、100年あればこの分野は十分人間に追いつけるように思う。
また「常識」については、確かにこれは人工知能では難しいとは思うが、この言葉はあまりに多くの概念を含みすぎているので、もう少し細かい要素に分解して分析してほしいところ。

この分野の問題で個人的に一番気になっているのは人工知能の「自我」について。
本書では将来的に人工知能が人間と同じような「自我・自意識」を持つ事ができるかどうかということに関してはあまり突っ込んだ議論をしていない。
この問題についてのまじめな研究結果をあまり見かけないことから想像すると、研究者・開発者も人工知能の「自我や自意識」についてはどこから手を付ければ良いのか見当が付かない状態なのかもしれない。

【余談3】
本書ではロボットカーの話題が出てくる。
確かに、100年以内には十分実用化されそうな技術だが…
(でも一般道は難しいかな?)

ただ、たとえ技術的に可能で事故の数が減ったとしても事故件数はゼロにはならないはず。
その場合被害者の側は納得できるのかという点と損害賠償は誰が支払うのかという点が気になった。
(技術的な問題というよりは社会の受け入れ体制や法整備の問題。)

【余談:その他】
他にも1972年のアポロ17号以降有人の月面着陸が行われていないという事や1982年に立ちあげられた第五世代コンピュータプロジェクトが色々批判されて終わった話や将来的に発展しそうな科学技術の個人的な予想など、色々と書きたい事や思うところはあるのだが、細かく書くと取り留めが無くなりそうなので省略。




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